NP教育の現状

現状での日本におけるナースプラクティショナー(以下、NP)の教育は、慢性期疾患の患者を対象にしたNP、主にクリティカル領域の患者をカバーできるNPの2つに大別されます。前者は、地域で生活する人々を対象に、老健施設や訪問看護ステーションなどで、後者は、病院のERやICU、外科形病棟で、それぞれ医師と連携を図りながら、自立して医療的介入ができることを目指しています。

日本NP協議会では、アメリカをモデルに、日本の特徴を加味して必要な能力を設定し、それらを習得するためにカリキュラムを組み立てています。大学院修士課程の2年間で、患者の病態に対する的確な「予測・判断能力」と「医療処置能力」を習得させるために、フィジカルアセスメント・薬理学・病態生理学の知識・技術をベースにしています。

さらに慢性期とクリティカルのNPが医療的介入を責任を持って実施できるように、各大学で43単位以上(14単位以上の実習を含む)学ぶ内容となっています。

  

医師の負担軽減のため、看護師などが連携して業務を担う

2010年3月、厚生労働省がチーム医療の推進を目的に「特定看護師(ナースプラクティショナー)」の創設を提言しました。看護師は医師の指示のもと、注射などの医療行為を行なうことができますが、この範囲をさらに広げ、今まで医師でなければできなかった医療行為を看護師が行うことで、医師の負担を軽減しようというものです。現在、特定看護師の創設に関するさまざまな議論や研究が行われています。

看護師は、基本的には医師の指示で医療行為を行いますが、十分な経験とスキルを持ち合わせた看護師がその専門性を活かし、より主体的に看護に取り組めるように専門看護師と認定看護師という資格が設けられています。

前者は、看護系大学院の修士課程を修了したあと、5年以上の実務経験を経て受験資格を得ることができます。後者は、5年以上の実務経験を持ち、所定の研修を半年受けた後に受験資格が得られます。両資格とも、看護というくくりを超えて、その専門性を強調しているのが特徴です。

  

厚生労働省と日本医師会の調査結果に隔たり

特定看護師の早期実現を念頭においたと推測されますが、医行為と診療の補助の合間に存在するグレーゾーンについて、「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書が出されてから僅か半年たらずで厚生労働省研究班による「看護業務実態調査」が行われ、その結果が発表されました、

調査では合計203もの医療処置や検査項目について、「現在、看護師が実施しているか」、「今後、看護師が実施可能か」などを尋ねています。例えば、①動脈からの採血、②解熱剤や鎮痛剤の臨時的な選択・使用、③静脈の確保と輸液剤の投与、④心肺停止患者の気道確保―など21項目について、看護しまたは医師の過半数が「現在看護師が実施している」と回答し、その多くが「今後、看護師の実施が可能」と肯定しています。

ただし、この調査結果が日本医師会などから問題視されているのは、回答者の7割が管理職で、現場の最前線で働くスタッフ看護師の回答はわずか1割強に過ぎず、現場の声を必ずしも反映しているとはいい難いという指摘があるためです。日本医師会はまた、研究班の調査が大学病院に偏っているため、特定看護師の創設ありきという前提で調査が行われていると批判しています。

そこで日本医師会では、同様の調査を病院と診療所(割合はほぼ半々、病院の規模は199床以下が6割)を対象に行ったところ、「今後、特定看護師の実施が可能」とうする回答が20%を超えたのは医師29項目、看護職員34項目でした。厚生労働省の研究班の調査では5割以上の項目も見られた一方、日本医師会の調査では最高でも3割台にとどまるなどの乖離があります。

この調査に対しても、「特定看護師に反対を前提とした調査」との異論があるものの。回答者の属性バランスを考えると、医師会の調査のほうが現場に近い声を反映してることは否定できません。医師会は新たな業務独占資格を作ることは一般の看護職員の業務を狭めることになるとして、特定看護師の必要性について正式に否定しています。

  

アメリカのNP(ナースプラクティショナー)導入の経緯

アメリカでは、医師以外にも高度な診療技術を持ち、独立して患者を診ることができる職業がいくつかありますが、そのひとつがナースプラクティショナー(以下NP)です。全米におよそ14万人いるNPの専門分野は、全体の6割を占めているファミリー科をはじめ、小児、成人など患者の年齢層や、病棟か外来かといった診療場所によって区分されています。

医師とNPの関係は州によって異なり、1割弱の州では医師の監督下で、4割が医師の協力の下で、残りの5割は医師から独立して診療行為が行なうことができます。実施できる医療行為は医療機関によってさまざまですが、例えば救急現場では看護師がトリアージをしたうえで、軽症患者はNPが診て、重症の場合のみ医師が診ると役割分担が明確になっています。

現在日本でも、看護師が行えるの医行為の拡大は議論を呼んでいますが、アメリカでも最初からNPがすんなりと受け入れられたわけではありません。医師団体からは「患者へのリスクが高まる」、看護団体でさえも「看護の範疇を超えていてる」と反対がありました。

しかし、NPの養成が実際に行われてみると、NPと医師が提供する医療の質が同等であることと、患者に近い立場のNPが早期介入することにより術後の合併症が減り、入院日数も短縮化されるなどの目に見えるメリットが次々と発表されたことからNP導入の後押しとなりました。

ちなみにアメリカでは、そのほか薬剤師も予防接種をはじめとする医療行為を行なうことができます。アメリカでの薬剤師の社会的地位は非常に高く、よく知られている話ですが、信頼できる職業調査で毎回1位あるいは2位に選ばれています(続いて看護師と医師などです。弁護士と答えたら、多分ギャグと思われるでしょう)。

  

看護師の業務拡大に賛成と反対の意見

医療技術は高度・複雑化をたどり、医療の仕事量全体が大きく増えるなか、1人の患者に医師、看護師をはじめ、薬剤師、理学療法士、臨床工学技士など多くの職種が関わるようになっています。それにつれ医師の立ち位置も変わってきています。法律上は医師が中心でなんでもできるようになっていますが、一人当たりの能力は限られているから、人手不足の議論に関係なく、看護師の業務拡大は当然というのが、特定看護師構想に賛成する立場の代表的な意見です。

現場で治療全体を把握して、療養上の世話を含めて24時間患者を見ているのは看護師です。外来化学療法室や人工透析の現場など、多くの場所では医師の配置が義務付けられていますが、その多くが形式的なものです。病棟も看護師が中心的な役割を果たしています。

反対の意見としては、法に基づいて高度な医学的判断と行為を行うのが医師に与えられた責務であり、それをサポートするのが他の医療関係職種という考え方です。長年努力して厳しい国家試験をクリアして医師を同じだけの責任を短い期間で医学を勉強した特定看護師が担えるかどうか疑問で、そもそも現在診療の補助として行っている看護師の様々な医療行為も医師が任せても大丈夫か判断を行っていると述べています。

今回の議論の発端となり、医学ニュース等でも再三採り上げられる医師不足の問題についても、過去3年で医学部の定員が1000人増えたことを挙げ、急性期の現場で看護師に高度な技術を指導するよりも、既に現場に出ている研修医や医学生を早く一人前にするほうが効率が良いとしています。

さらに、看護の世界では専門・認定看護師が育っているので、新たに特定看護師を創設するよりも、こうした人たちを活用したり、給与面で遊具するほうがモチベーションもあがるだろう、と指摘しています。

  

日本医師会と薬剤師会は特定看護師の導入に反対

慢性化する医師不足への対策、チーム医療のより一層の効率化を目指して、コメディカルの役割拡大が進んでいます。特に看護師の業務範囲の見直しは具体化しており、より高度な医行為を行うために「特定看護師」の創設が検討されています。実際にアメリカで導入されていてるNP(ナースプラクティショナー)をモデルとして、初期研修臨床研修さながらの実習が行われている養成コースもあります。

特定看護師の導入により、救急現場でトリアージや検査オーダーを行うことができるようになれば、緊急度や重症度の高い患者さんに迅速に対応することができます。周術期などの急性期では、患者さんの重症化防止や合併症の予防にも繋がるはずです。

また、慢性期病棟の場合でも、長期間に渡って患者の病態の把握が求められる夜勤の看護師も含めて、患者さんと接する機会が多いため、患者の訴えを聞いて早急に対応できれば、満足度の上昇にも繋がると期待されています。

その一方、日本医師会は、患者の診察と治療、薬の処方などは高度な医学的判断と技術を要した医師が行わないと、患者への悪影響が出かねないとして、看護師に診察などの裁量権を持たせることに反発していますし、同様に日本薬剤師会も薬剤の処方を看護師が行うことは容認できないとしています。

現在、特定看護師の要件や養成過程の認定基準を検討する目的で、ナースプラクティショナーの養成講座を手掛ける大学院など16校を、モデル事業として認可しています。実習では、安全管理体制を整備した環境の下で、通常は「診療の補助」に含まれないと理解されている医行為の実施を施行しています。